ウズベキスタンでカレー?
ウズベキスタンの首都タシュケントに到着したのは夜だった。翌朝、B&Bで朝食をすませ、何はともあれ最初の観光地として選んだのはバザール。街の北西方面にあるチョルスー・バザールは観光客にも有名な大きいバザールだ。
商売上手なおじさんおばさんが、ひっきりなしにこっちへ来いよと声を掛けてくる。野菜から果物、ドライフルーツ、スパイスまでなんでも揃っている感じ。
ふと、とあるスパイス屋の前を通ると、やはり声を掛けてきた。
「カレー?」
えっ? カレー? なんでカレー?
適当に「いらないよ」的なジェスチャーをしてその場を離れたが、頭の中は疑問符でいっぱいだった。
地元の人間には見えないから観光客というのは分かるだろうが、日本人だというのが分かったのだろうか? 日本人ならカレーが好きということが知られている? そういえばスパイス屋だったから、カレー用のスパイスを求めてきたとでも思われたのかもしれない。
そんなに日本人のカレー好きが浸透しているのだろうかと疑問に思いつつもあちこちを見ていくうちに、今度は肉屋でまた、
「カレー?」
という呼びかけ。
なんなんだ? 何がカレーなんだ?
カレーで煮込む肉を求めてきたのだと思ったのか?
しかしどうも違う気がするが、分からない。なんだろう? カレー?
その後も2,3回「カレー?」と声を掛けられ、そのたびにやや愛想良く No のジェスチャーをする自分。疑問は募るばかりだった。
次の日、タクシーを捕まえての移動中、特に話すこともなかった(というか言葉が通じない)が、運転手がこっちを見ながら一言を放った。またこの言葉だ。しかし、今回は少し発音が違った。
「カレーヤ?」
カレー屋? いや、自分はカレー屋ではない。確かにカレーは好きで、家でもスパイスを使ったカレーをよく作るが、カレー屋ではない。
なんだろうか。日本人といえばカレー、という認識がここまで浸透しているのは、一体どういうことだ。確かに国民食とも言えるカレーだが、ウズベキスタン中でそんな変な認識を持たれたままで良いのか日本。
軽く頭痛がする重いながらも、「カレーじゃないよ」的なジェスチャーをしていると、次に運転手はこう言ってきた。
「シーナ?」
あっ、と思った。
分かった。なんて勘違いをしていたんだろうか。
発音がかなり崩れていたが、つまり「中国人?」と訊いてきていることがなんとなく分かった。
そして、つまり、「カレー?」というのは、
そうだ、「Korean?」と訊いてきているのだったことをようやく理解できた瞬間だった。
あーーーー、そういうことだったのかーーーー!!!! と一人で勝手に納得してちょっと吹き出してしまった。
カレーじゃなかったのかよ!!!
その後も何度か同じことを訊かれたのだが、よくよく訊いてみると人によって「カレー?」、「カリーヤ?」、「カリーア?」みたいな発音だった。頑張れば「コリア」というように聞こえなくもないが、ほぼほぼ日本語の「カレー」である。これは普通分からないと思う……。
こうして、「カレー?」と訊かれた場合に対する正しい返答ができるようになったのだった。
"yo'q. Yaponi. Men Yaponiadan keldim."
(いいえ、日本です。私は日本から来ました)
すると皆納得して「あー、ヤポーニ」と言ってくれるようになりました。だいたいその後来るのは「トーキョー?」「スシ?」みたいな感じ。ちょっとした単語を並べて会話するのが面白いし意外と盛り上がれるものです。
こうして変な誤解は解決し、その後の観光もややスムーズになりましたとさ。いやはや、変な勘違いをしてしまったものだ。